慶応大学、花粉症の抗アレルギー薬が及ぼす副作用の一因を発見
21世紀COEプログラム心の統合的研究センター*
花粉症の抗アレルギー薬、副作用の一因を発見
-脳の前頭葉の血流低下が問題-
アレルギー性鼻炎や花粉症などの症状緩和に広く用いられる抗ヒスタミン薬は、眠気や集中力・記憶力の低下などの副作用があることが指摘されています。慶應義塾大学大学院21世紀COEプログラム心の統合的研究センターの渡辺茂教授と辻井岳雄助教は、光トポグラフィーという装置を用いて抗ヒスタミン薬を服用した際の脳血流の変化を測定し、抗ヒスタミン薬が脳の前頭葉の血流に強い影響を及ぼすこと、その影響が薬の種類によって異なることを世界で初めて明らかにし、前頭葉の血流の低下が副作用の一因となっていることを発見しました。一般に、ある事柄を記憶したり集中するときは、前頭葉の血流が増加し、強く活動することが知られています。この研究結果は抗ヒスタミン薬の中枢神経抑制作用を解明する突破口として国内外の研究者から高い注目を集め、国際的な精神薬理学雑誌”Psychopharmacology”電子版に5月22日に掲載**される予定です。
1.ヒスタミンと抗ヒスタミン薬の作用
ヒスタミンはのどや鼻粘膜に多い「肥満細胞」と呼ばれる細胞などから分泌されるもので、血管拡張などの作用をもち、身体にとって必要な物質です。しかし、アレルゲンが体内に入ると、ヒスタミンが過剰に分泌され、体内各所にあるヒスタミン受容体というたんぱく質と結合し、かゆみや鼻水などが出ます。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの代わりに、このヒスタミン受容体に結合し、アレルギーの作用を制御するため、症状を抑えることができます。一方で、脳内にもあるヒスタミンは、脳神経のヒスタミン受容体を介して、学習・記憶、覚醒・睡眠などの神経機能の調節をおこなっています。そのため、服用によって脳神経のヒスタミン受容体に作用して眠気・ふらつき・認知機能の低下などをもたらす抗ヒスタミン薬(旧世代薬、例:ケトチフェン、クロルフェニラミン)以外に、最近では、アレルギー抑制作用が強く、副作用が少ない抗ヒスタミン薬(新世代薬、例:エピナスチン、フェキソナジン)が実用化されています。今回の実験では、日本ベーリンガー株式会社のエピナスチン製剤「アレジオン錠」を使用しました。
2.今回の実験について(光トポグラフィー***による脳活動の測定)
今回の実験では、プラセボ(偽薬)、エピナスチン(新世代薬)、ケトチフェン(旧世代薬)の3種類を12人の被験者に服用してもらい、記憶課題を行う際の脳血流の変化を光トポグラフィーを使用し調べました(添付資料の図を参照)。この結果、エピナスチン(新世代薬)を服用した時はプラセボ(偽薬)と同様に血流低下は見られず、前頭葉の正常な活動が見られますが、ケトチフェン(旧世代薬)を服用すると前頭葉の血流が低下し、前頭葉がうまく活性化しないことが分かりました。今回の研究により、記憶課題や集中力を必要とする課題を遂行している時の前頭葉の活動に、抗ヒスタミン薬が強い影響を及ぼすこと、その影響が新世代薬と旧世代薬で異なることを初めて明らかになり、国内外の研究者から高い評価を得ました。従来行われてきた眠気の質問紙調査や認知課題の成績に加えて、その神経相関を明らかにすることで、抗ヒスタミン薬の鎮静作用の解明がさらに前進するものと期待されます。また、脳血流を調べるという客観的に鎮静作用を評価する指標が確立されることにより、副作用の少ない新薬の開発に寄与することも考えられます。
*添付資料あり。