国内で初めて、ETC車載器用無線機のアナログ回路を1チップに集積
ETC車載器用送受信システムMMICを開発
三菱電機株式会社(執行役社長:下村 節宏)は、ETC※1車載器の5.8GHz帯無線機に必要なアナログ回路を1チップに集積した送受信システムMMIC※2を開発しました。ETC車載器用無線機の1チップ化は国内で初めてです。
本開発成果については、2006年6月13日から15日に米国サンフランシスコ市で開催される国際マイクロ波シンポジウム(IEEE MTT-S International Microwave Conference)で発表する予定です。
※1 Electronic Toll Collection system:自動料金収受システム
※2 Monolithic Microwave Integrated Circuit:マイクロ波回路を単一チップ上に形成した集積回路
開発の背景
ETC車載器をはじめとする無線システムに用いられる無線機は、一般に送信部と受信部、送信データを送信波に重畳する変調器、受信波から受信データを抽出する復調器で構成されます。これらの信号処理は送受信する高周波を直接取り扱うのではなく、安定で効率的に動作する比較的周波数の低い中間周波で行い、送信であ黷ホ中間周波を変調してから送信する高周波に変換し、受信であれば受信した高周波を中間周波に変換してから復調するのが通常です。
無線機はアナログ回路であるため、比較的大電力の送信波が、微弱な電波を扱う受信部や、中間周波を生成するための高周波を発生させる局部発振器、微弱なデータを扱う変調部・復調部に影響すると、信号に歪が生じてデータの誤りや混信の原因になるので、回路はこうした干渉が最小限となるように配置や構成がなされており、現在、無線機として最も数の多い携帯電話機では、送信用大電力増幅器を別モジュールとし、その他の回路をシリコンゲルマニウム※3のMMICに集積することにより、部品点数が少なく経済的な無線機を実現しています。
ETC車載器では、携帯電話機に比べ送信(空中線)電力が10mWと小さいため、送信用電力増幅器を含めた無線機の1チップ化が期待されていましたが、1~2GHz帯を使用する携帯電話機に比べETC車載器の周波数帯は5.8GHzと高く、送信波がチップの内部を伝播して生ずる干渉、とりわけ局部発振器への干渉が送信波の変調精度を劣化させてしまうという問題があり、実用化が遅れていました。
当社は今回、チップ内の干渉を抑圧する新技術を開発し、ETC車載器の無線機をMMICとして1チップに集積しました。
※3 シリコンに少量のゲルマニウムを添加した半導体。低消費電力で高周波特性に優れる
主な開発成果
1.送信部と局部発振器のMMICチップ内干渉抑圧技術を開発
シリコン基板上に生成するシリコンゲルマニウム層を、従来の数100マイクロメートルから100マイクロメートル程度に薄くし、厚みを制御することにより、チップ内干渉を抑圧することに成功しました。これにより、送信部と局部発振器の1チップ集積が実現しました。
2.ETC車載器の無線機を1チップに集積した送受信システムMMICを開発
従来、別のモジュールや部品に分けていた送信用電力増幅器と送受信切り替えスイッチを含め、無線機のアナログ回路を1チップに集積した送受信システムMMICを開発しました。フィルター回路を除くほぼすべてのアナログ回路を1チップに集積したので、周辺部品を含めた無線機の実装が簡素し小型化が可能になります。
このICは、5月25日発売の当社製ETC車載器、EP-400、EP-500、EP-700の各シリーズに搭載されています。
今後の展開
本技術をETC車載器だけでなく、小型化を要求されるマイクロ波帯無線通信機器に広く適用する予定です。
特許 国内13件、海外2件出願中。
開発内容の補足
図1に、ETC車載器の構成とMMICの範囲を示します。今回開発したETC車載器用送受信システムMMICは、高周波回路である送信部(変調器を含む)、受信部、局部発振器と、復調器を1チップに集積したものです。チップに用いるシリコン基板の厚さを従来の4分の1の約100マイクロメートルと薄くし、送信波などのマイクロ波帯信号がシリコン基板内を伝播しにくくすることで、送信部の信号が局部発振器に漏洩して生じるチップ内干渉を防ぐことができます。
図1 ETC車載器の構成とMMICの範囲
※添付資料参照
