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2025'12.08.Mon
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2007'01.21.Sun

農業生物資源研究所、赤米が白米になった原因を解明

赤米が白米になった原因を解明
- 数年で良食味の赤米が育成 -


【要旨】

 米には、玄米が着色している着色米と呼ばれる種類があり、紫黒米、赤米、赤褐米、白米(無着色米)などに分類されます。イネの祖先種は、すべて着色米です。進化の過程で着色米に変異が生じ、白米が出来たと推測されていましたが、着色米や白米が生じる遺伝的なしくみは不明でした。

 今回、農業生物資源研究所が中心となり研究を進め、イネゲノムの完全解読情報を駆使することにより、米が赤くなるために必要な2つの遺伝子、酵素遺伝子(Rd)と調節遺伝子(Rc)、の単離に成功し、長年の謎を解明しました。赤米の調節遺伝子に変異が生じ、その偶然生じた変異を農民が積極的に選択し、現在の白米が選抜育種されたことも明らかになりました。

 赤米にはカテキンやタンニンなどが豊富に含まれていることから、抗酸化機能に富んでいますが、現在生産されている赤米には良食味のものはありません。今回の研究によって、赤色に関与する2つの遺伝子そのものが明らかになったため、今後はこの成果を利用することで、食味のよいコシヒカリを精米部分(胚乳)に持ち、果皮に赤色のカテキンを多く含む良食味米が短期間で交配育種できます。


【この研究を理解するための知識】

 玄米の色は、RcとRdの2つの遺伝子で制御されています。どちらもメンデルの法則で遺伝します。大文字のRc, Rdは遺伝子が優性であること、小文字のrc, rdは劣性であることを示します。

 ある個体がRcRdの遺伝子の組み合わせを持つ場合には、玄米は赤色、

 Rcrdの遺伝子の組み合わせでは玄米は赤褐色、

 rcRdあるいはrcrdの遺伝子の組み合わせでは玄米は白色(無着色)になります。


【研究の背景】

 最近、古代米と呼ばれて人気が出ている着色米は、その名のとおり玄米が赤や黒などに着色しています。着色の色素の主な成分はカテキンやアントシアニンであり、抗酸化機能を有することから注目されています。これらの米は日本で稲が栽培されはじめたころから栽培されていた米ですが、白米がいつの時代から栽培されるようになったのかはわかっていません。いずれにしても長い栽培の歴史の中で、栽培は着色米中心から白米に置き換わりましたが、少なくとも明治時代の中頃までは日本の各地で着色米が栽培されていました。現在我々はお祝いの席やお祭りなどで赤飯として食べている米は、精白米に小豆を混ぜて炊飯し、赤色を着色したものですが、これは昔の赤米の食事を偲んでいるためだといわれています。

 赤米、赤褐米の研究は、約60年前から北海道大学で精力的に行われ、イネの第1染色体と第7染色体の2箇所に着色を支配する因子が存在することがわかっていました。しかし、技術的な困難さのためにその遺伝子の実態は全くわからないままでした。2004年に日本が中心となり完全解読したイネゲノム情報を利用することで、赤米、赤褐米の着色についての、長年の謎を短期間に一気に解き明かすことに成功しました。

 <関連資料「図1」参照>


【研究手法と得られた主要な成果】

1. コンピュータプログラム(RiceGAAS)を用いて、イネゲノム情報の中で、着色に関係すると予想される酵素遺伝子と調節遺伝子を推定しました。

2. 推定した遺伝子をイネに形質転換することで、その遺伝子機能を直接証明しました。
・ 具体的には、白米のイネ(rcrd)に、推定したRcを導入することで、玄米色が赤褐色に変わりました。Rcは遺伝子発現を調節する因子(bHLHタンパク質)でした。 
・ 赤褐米のイネ(Rcrd)に、推定したRdを導入することで、玄米色が赤褐色から赤色に変わりました。Rdは酵素タンパク質(DFR)でした。

 <関連資料「図2」参照>

3. 赤米から白米になった原因はRc遺伝子の内部で14塩基のDNA配列が欠失したことで、遺伝子の機能を失ったためであることが明らかになりました。調査したすべての着色米は欠失がなく、白米ではすべて欠失がありました。

4. 偶然Rc遺伝子の中に生じた変異を、農民は積極的に選んで、白米を選抜育成していったことが明らかになりました。(RcとRdの遺伝はメンデルの法則で遺伝します。イネは2倍体です。そのためRcについては2つもっています。たとえばRcrcのイネが自殖するとRcRc, Rcrc, Rcrc, rcrc のように分離します。そのため白色になるにはrcrcの組み合わせを積極的に選抜しなければ不可能です。)


【波及効果】

 赤米にはカテキンやタンニンなどが豊富に含まれていることから、抗酸化機能に富んでいます。現在生産されている赤米には良食味のものはありません。今回の研究によって、赤色に関与する2つの遺伝子そのものが明らかになったため、今後は得られた遺伝子情報を利用することで、食味のよいコシヒカリを精米部分(胚乳)に持ち、果皮に赤色のカテキンを多く含む良食味米が短期間で交配育種できます。「アカコシヒカリ(名前のイメージ)」のような新しい良食味米の育種が期待されます。この米を使用すれば、アズキを使用しない、本物志向の赤飯もできます。これまでになく、おいしくて多収穫の赤米を初めて育種することができるため、良食味赤米のさまざまな利用が期待されます。

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