東レ、ナノ構造制御技術を駆使した半導体実装用接着シートを開発
ナノ構造制御技術を駆使し、高機能・高性能な半導体実装用接着シートを開発
-LSI実装面積を極小化、工程の簡略化を実現し、世界初の実用化を目指す-
東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:榊原定征、以下「東レ」)は、この度、独自のナノ構造制御技術を駆使して、シリコンウェハー上にラミネートした後、未硬化のままウェハーと一括でダイシング(1)が可能なエポキシ系半導体実装用接着剤を開発し、これを用いたフリップチップ接続(2)用WL-NCF(3)(Wafer Level Non-conductive Film)の技術確立に成功しました。本技術により、LSI(4)実装面積の極小化(5)と工程簡略化(6)が実現でき、薄型ディスプレイの小型化や生産性向上などへの対応が期待されます。今後、半導体メーカーとの共同開発を進めることで1~2年後には世界初の実用化を目指してまいります。なお、本開発品は本年12月6~8日に幕張メッセで開催される「セミコン・ジャパン2006」に出展する予定です。
通常、LSIと回路基板の間には、両者の電気的接続の長期信頼性向上のために、樹脂が充填されていますが、従来、樹脂の充填法として、回路基板上にLSI1個単位で個別にアンダーフィル(7)塗布やACFの貼り付けを行っていたため、[1]工程数が多く時間がかかる(LSI1個当たり数秒)、[2]LSIの大きさより広い範囲に充填樹脂が広がることによるLSIより一回り大きい実装エリア(幅にして0.5~2mm程度)が必要となるなどの課題がありました。またCOG実装(8)におけるACFを用いた工法では狭ピッチ化の限界に迫っており、抜本的解決法の開発が求められていました。
これに対して東レでは、ダイシング工程で樹脂層に発生する亀裂や欠け発生のメカニズムを詳細に解析した結果、未硬化状態での特殊な多成分系のナノ相溶体(9)がダイシングに適した機械特性を発現することを見いだしました。この知見をもとに、未硬化状態で制御された熱流動特性、機械特性、表面粘着性、光学特性と、高い接続信頼性をもたらす硬化後の比較的低い線膨張係数と高い接着力を有するエポキシ系WL-NCF用接着剤を開発しました。具体的には、樹脂未硬化状態において、ラミネート工程(80℃程度)では良好なバンプ(10)埋め込みを実現する高い流動性を有しますが、その後のダイシング工程(室温)では切削に耐える機械特性を有し、かつ流動性、粘着性が無いために切削粉の表面への付着を抑えることが可能となります。また、透明性が高いために、ダイシング工程や実装工程において位置制御に必要なLSI上のアライメントマーク認識が容易となります。さらに、樹脂硬化後は85℃/85%Rh環境下2千時間でも剥がれが生じない安定した高い接着力を実現しました。
今回開発しましたWL-NCFは、以下のようにして用います。まずバンプなどの回路基板への接続用電極が形成されたウェハー上に熱ラミネートします(LSI1個当たりに換算すると0.1秒以下)。次に従来と同様にLSIの電極面側(本技術の場合はNCF層が最上層となる)からダイシングします。これにより、電極面上にLSIチップと同じ面積(ジャストサイズ)のNCFが形成されたLSIチップが個片として切り出されます。これを200℃で10秒程度加熱するフリップチップボンダー(11)などで回路基板に実装するだけで電極周囲の樹脂充填までの工程が完了します。本開発のWL-NCFを用いた場合、工程の簡略化に寄与できるだけでなく、NCFがLSIとジャストサイズのために実装面積の極小化にも寄与できます。具体的には液晶駆動LSIのCOG実装での狭額縁化(12)などを想定しています。
東レは新中期経営課題“プロジェクトInnovation TORAY 2010 (略称IT-2010)”において、重点4領域の一つに設定した「情報・通信・エレクトロニクス」分野においても、“Chemistry”を核に、樹脂設計技術、微細加工技術、ナノテクノロジーを融合させながら、コーポレートスローガンである “Innovation by Chemistry”を実践することにより先端材料を創出し、新しい価値の創造を通じて社会に貢献してまいります。
【 技術用語について 】
(1)ダイシング
半導体ウェハー上に賽の目(ダイス)状に形成された多数のLSIチップを、高速回転する円形のダイヤモンドブレードで、一つ一つのLSIチップに切り分ける工程。
(2)フリップチップ接続
LSIチップを電極面を下にして(ひっくり返す=フリップ)して回路基板に接続する方法。
(3)WL-NCF
接着剤フィルムを用いるフリップチップ実装には、絶縁性接着剤に導電性粒子を分散させたものをテープ状に加工したACF(Anisotropic Conductive Film)を用いる方式がある。LSIチップよりも一回り(0.5~1mm)広幅のACFテープを先に回路基板側電極上に貼り付けた後に、LSIの実装を行う。したがってACFテープの貼り付けはLSIチップ1個に対し1個行う必要がある。これに対しWL-NCFでは、LSIチップへの個片化(ダイシング)前のウェハー上にシート状の絶縁性接着剤を貼り付けるため、LSI数百~千個以上分の接着剤層を1度に形成できる。さらには接着剤層をLSIと共にダイシングするため、接着剤層の大きさがLSIと完全同サイズ(ジャストサイズ)となり、実装面積が削減される。
(4)LSI(Large Scale Integrated Circuit)
1チップ中のトランジスターの集積度が千個~10億個程度のIC(半導体集積回路)を指す。
(5)LSI実装面積の極小化(20%以上削減)
例えばサイズ15.6mm×1.5mmのLSIの実装では、ACFを用いた実装を行った場合に比べ、本技術を用いた場合は実装面積を20%以上削減できる可能性があります。
(6)工程の簡略化(ダイシング以降の実装工程を1/3以下にする可能性あり)
COG実装の場合、ダイシング後に必要な2つの主要工程である樹脂層形成(ACF貼り付け)とボンディング工程を、ボンディング工程の1工程のみに簡略化できる。
(7)アンダーフィル
フリップチップ接続した半導体チップと回路基板の隙間に流し込んで充填する液状樹脂のことで、流し込んだあとに加熱などで樹脂を硬化させ金属製バンプやハンダボール(回路基板への接続用電極)と回路基板の接合を機械的に補強する。金属接合を形成することでフリップチップ接続を行う場合、プロセス温度が接着剤樹脂の分解温度以上となるため、接続終了後に樹脂充填を実施するアンダーフィルが用いられる。
(8)COG実装(Chip on Glass)
ガラス基板上(電極が形成されている)にLSIを直接実装する技術。携帯電話などの液晶ディスプレイの駆動用LSIの実装によく使われる。
(9)多成分系ナノ相溶体
相互に化学結合していない独立の複数種(多成分)の高分子がナノメーターオーダーで分散しあっている高分子構造。
(10)バンプ
半導体チップと回路基板の電気的接続を行うために、半導体チップ上に形成した高さ数~数十μmのAuやハンダなどで形成された突起のこと。バンプと回路基板上に形成した電極パッドを接触や金属結合させることで、LSIチップと回路基板の電気的接続を行う。
(11)フリップチップボンダー
フリップチップ接続用の製造装置のこと。半導体チップを加熱し、半導体チップ上に設けられたバンプと回路基板のパッド電極の接合を形成し、LSIを回路基板に実装することが可能。
(12)狭額縁化
液晶駆動用LSIを実装(搭載)する液晶ディスプレイの枠(額縁)の幅を狭くすることで、ディスプレイの小型化を図る技術動向。
以上