理化学研究所、変形性関節症の新たな原因遺伝子「GDF5」を発見
変形性関節症の新たな原因遺伝子「GDF5」を発見
- 高齢化社会の大きな課題である疾患の予防、治療に向けて新たな一歩 -
◇ポイント◇
・ 軟骨の特異的な成長因子「GDF5」遺伝子内の多型が変形性関節症と強く相関
・ 日本人および中国人に共通する疾患遺伝子であることを確認
・ 変形性関節症を発症しやすい遺伝子多型では、変形性関節症のリスクが1.8倍に
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、中国・南京大学他との国際共同研究(※1)により、変形性関節症(OA: Osteoarthritis)の新たな原因遺伝子GDF5(Growth Differentiation Factor 5)を発見しました。理研遺伝子多型研究センター(中村祐輔センター長)変形性関節症関連遺伝子研究チームの池川志郎チームリーダー、宮本恵成研究員らの研究チームによる成果です。
OAは関節軟骨の変性や消失を特徴とする疾患です。最も発症頻度の高い骨や関節の疾患で、最近の研究では日本だけでも約1,000万人の患者がいるとされていますが、その原因は不明でした。今回、遺伝子多型を用いた相関解析という手法を用い、これまで謎であったOAの発症しやすさ(疾患感受性)を決定する遺伝子のひとつが、GDF5遺伝子であることを同定しました。
GDF5は軟骨に特異的な成長因子で、関節の形成や軟骨細胞の分化に関わっていることが知られていました。そこで、OAとGDF5との関連を調べました。GDF5遺伝子領域の内の遺伝子多型について、日本人の股関節OA患者でケース・コントロール相関解析(※2)を行ったところ、遺伝子の発現を調節する領域にある多型に非常に強い相関が見つかりました。OA患者の約80%がこの多型の感受性アレル(※3)を持ち、感受性アレルを持つ人は、持たない人に比べ、約1.8倍も股関節OAを発症しやすいともわかりました。次に膝関節OAで同様の解析を日本と中国で独立に行ったところ、股関節OAで相関を認めた多型において、日本人および中国人の両方で同様に相関のあることを確認しました。すなわち、GDF5が関節の部位に関わらずOA全般に影響があり、人種を超えて世界中の多くの人々がOAを発症しやすい体質を規定する因子である可能性が明らかになりました。さらにOA感受性アレルでは、GDF5の転写活性が低下していることを証明しました。GDF5は関節がOAにならないように保護しており、その転写活性の量が低下するとOAを発症しやすくなると考えられます。
今回の発見をもとにGDF5とOAの関係をさらに詳しく調べることで、これまでにない新しいタイプのOA治療薬の開発が可能になります。またGDF5の遺伝子多型の情報とこれまで知られている感受性遺伝子の情報を組み合わせることにより、OAをどの程度発症しやすいかを事前に予測することが可能になります。今回の発見は、OAのオーダーメイド医療に向けての新たな一歩となります。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』(4月号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(3月25日付け:日本時間3月26日)に掲載されます。
* 以下、詳細は関連資料を参照して下さい。
<補足説明>
(※1) 国際共同研究
本研究は、南京大学・医学院附属鼓楼医院(蒋青教授、史冬泉研究員)、及び住友病院・整形外科(西塔進部長)、三重大学・整形外科(内田淳正教授)、京都府立医科大学・整形外科(久保俊一教授)、遺伝子多型研究センター・遺伝子多型タイピング研究・支援チーム他との共同研究によるもの。
(※2) ケース・コントロール相関解析
遺伝子多型を用いて疾患感受性遺伝子を見つける方法のひとつ。ある疾患の患者(ケース)とその疾患にかかっていない被験者(コントロール)の間で多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。検定の結果得られたP値(偶然にそのような事が起こる確率)が低いほど、相関が高いと判定できる。
(※3) 感受性アレル
SNPには通常2つのアレル(対立遺伝子)が存在する。正常人と比べてある疾患の患者が持っていることが多いアレルを感受性アレルという。このアレルを持っていると疾患を発症しやすくなる(疾患になるリスクが高くなる)と考えられる。